「アルツハイマー型認知症」の理解と介護について現役介護福祉士が解説

認知症

はじめに

 こんにちは、介護プレイスのtokoです。今回は「アルツハイマー型認知症の理解と介護」を主題として話を進めていきたいと思います。

 超高齢化社会を迎えた現代の日本では高齢者の7人に1人が認知症になると言われています。ですからいつ自分の身近な人や、自分自身が認知症になっても不思議ではありません。認知症になってしまったらどうしようと不安を抱くのは当然の心理です。

 その不安を少しでも和らげるには、まずは認知症のことを正しく知ることが大切です。そこから「認知症の適切な介護とは何か」が見えてきます。

認知症への誤った介護は、症状を悪化させ介護が難しい状態へと進んでしまいます。一方で適切な介護を行うことができれば認知症であるご本人、そして介護者の心と体の負担を減らすことができます。その為にもまずは認知症についての知識を一緒に深めていきましょう。

認知症とは?

 認知症は様々な病気が原因となり、脳が何らかの障害を受け引き起こされる症状です。原因となる疾患(病気)で最も多いのが、脳の神経細胞が障害され徐々に萎縮していく「アルツハイマー型認知症」です。認知症を引き起こす原因の約7割がアルツハイマー型です。他に「脳血管性認知症」、「レビー小体認知症」、「前頭側頭葉認知症」を加えて4大認知症といいます。

 政府広報オンラインに「知っておきたい認知症の基本」というページがあります。認知症についてわかりやすく解説してありますので、そちらもぜひ参考にしてみてください。

 認知症は原因となる疾患によって、様々な症状が引き起こされます。認知症の症状として最初に思い浮かぶのは「物忘れ(記憶障害)」ではないでしょうか?

 確かに「記憶障害」はアルツハイマー型認知症で見られる代表的な初期症状の一つではありますが、認知症の症状はそれだけではありません。では他にどのような症状があるのか、詳しく見ていきましょう。

中核症状と行動・周辺症状

 認知症の症状は「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」に区別されます。聞きなれない言葉ですが「中核症状」と「行動・心理症状」の違いを理解することが、認知症を正しく理解するための大切な第一歩になりますので、詳しく解説していきますね。

中核症状とは

 「中核症状」は脳の神経細胞が障害されることにより引き起こされる症状です。認知症のタイプによって症状の現れ方は異なりますが、認知症の方すべてにみられる症状です。代表的な中核症状は以下の通りです。

記憶障害記憶力が低下し、物忘れや物覚えの低下が見られる。加齢による一般的な物忘れとは異なる。
・つい先ほどあったことをすっかり忘れてしまう
・何度も繰り返し同じ事を聞く(言う)
見当識障害時間・場所・人物の認識の低下。
・日付や季節の理解が曖昧になる
・自分のいる場所の見当がつかなくなり道に迷う
・目の前にいる人が誰であるかわからなくなる
実行機能障害段取り・手順をふんで行う作業が困難になる。
・料理、ATMの操作など
判断力の低下的確な判断を行うことが難しくなり、混乱したり誤った行動をとる。
・季節にそぐわない服装
・信号無視や道路への飛び出しなど。
失行手足の運動機能の問題ではなく、脳が障害されたことにより今までの生活で身につけていた行為が難しくなる。
・箸やスプーン等の道具の使い方
・着替えなど
失認感覚(聴覚・視覚・嗅覚・味覚・触覚)を通して知覚した物事を、正しく認識することが難しくなる。
・鏡に映る自分が誰なのかわからない
・目の前にあるものが何だか理解できない
・自分の身体を正しく理解できない
失計算数字に関することが苦手になる。
・買い物でお札ばかりを使う
失語言葉を話すための器官(舌や唇等)の問題ではなく、脳の機能障害により言葉が話せなくなる。

行動・心理症状(BPSD)とは

 次に行動・心理症状(以後BPSD)について解説していきます。

中核症状は脳の神経細胞が障害されることにより出現する症状でしたが、BPSDは中核症状を取り囲むようにして、様々な要因により現れる症状です。

【BPSDの主な要因とは】

  • 認知症の症状によりそれまでと同じように生活を送ることが困難となること
  • 周囲からの叱責・否定・介助・不適切な関わり
  • 環境の変化、健康状態

これらのような要因によって不安・葛藤・混乱・自信喪失等の心理状態に陥り、その結果「BPSD」を引き起こします。

 では、BPSDの具体的な症状とはどのようなものでしょうか。

【BPSDの具体的な症状とは】

  • 抑うつ 幻覚 錯視
  • 異食 徘徊 暴言 暴力
  • 介護拒否 失禁 弄便(ろうべん)
  • 帰宅願望 せん妄 睡眠障害 もの盗られ妄想

BPSDの症状を見るとなかなか対応に困りそうな気がしてきます。

ですから介護をする上では、

いかにBPSDを引き起こさないようにするか、またはいかに緩和するかが重要になります。

それを踏まえた上で、次章ではアルツハイマー型認知症の介護について詳しく説明していきます。

 

アルツハイマー型認知症と介護

アルツハイマー型認知症

 認知症の中で最も多いのがアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症は脳の神経細胞にアミロイドβ(ベータ)というタンパク質が沈着し「老人斑」というシミのようなものが生じます。さらに神経細胞の内部で「タウタンパク質」と呼ばれるタンパク質に異常が生じ、徐々に神経細胞が破壊され脳が萎縮していく病気です。

アルツハイマー型認知症の症状

 アルツハイマー型認知症は病変の広がりと共に認知機能がゆっくりと低下していきます。認知機能の低下により記憶障害に始まり、実行機能障害・見当識障害等の中核症状が見られるようになります。

また、中核症状とともに抑うつ・もの盗られ妄想・徘徊等のBPSDも起こりやすいのが特徴です。

中期になると見当識障害・判断力の低下・失行・徘徊等の症状がみられ、後期になると失認・失語・失禁・摂食・嚥下障害と症状が進行し、最終的には寝たきりの状態になるのがアルツハイマー型認知症です。

アルツハイマー型認知症の介護について

 アルツハイマー型認知症の介護についてポイントごとに整理しながら解説していきます。

1.『アルツハイマー型認知症を正しく理解する』

まずはアルツハイマー型認知症がどのような病気であるかを知ることは適切な介護への第一歩です。特に「中核症状」と「行動・周辺症状」について理解し、どのように向き合うべきなのか考えていくことが大切です。

2.『本人の視点を大切にする介護』

 本人の視点を大切にする介護とは「パーソン・センタード・ケア」1に基づく考え方です。認知症であっても一人の人として尊重され、心豊かに過ごせるように支えていくことが認知症の介護には求められます。具体的にはその人の歩んできた人生と生活を尊重すること、その人の想い・求めていることを想像し大切にすることです。

さらにパーソン・センタード・ケアでは「人として尊重されること(愛)」を中心として、5つの心理的欲求(自分らしさ・くつろぎ・共にあること・たずさわること・結びつき)を満たしていく介護を提唱しています。

本人の視点を大切にする介護は認知症の症状を穏やかにし、介護者の負担を軽減することにもつながります。最初は思うようにいかない事もあると思いますが、焦らず継続していくことが大切です。

3.『医療・介護サービスの利用』

 アルツハイマー型認知症は徐々に認知機能が低下していく病気です。しかし早期に治療を開始すれば病状の進行を1年程度遅らせることが可能だと言われています。また2023年12月には日本の「エーザイ製薬」とアメリカの「バイオジェン社」が開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の保険適用が承認されました。その「レカネマブ」についてもアルツハイマー型認知症を根本的に治すものではありませんが、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる事を期待されている新薬です。

 介護ではBPSDに悩まれるケースもあると思います。BPSDは薬物療法で症状を軽減できる可能性があります。しかし薬だけに頼るのではなく、対応の見直しや介護の工夫等と併せて考えてみましょう。

 在宅介護の場合は、介護サービスを利用する事を検討してみてはどうでしょうか。介護サービスには訪問・通所・短期入所サービスがあります。ニーズに合わせたサービスを活用することで、介護負担を減らすことができるでしょう。

各介護サービスの利用については要介護認定が必要となりますので、まずはお住まいの市区町村の介護保険担当窓口または地域包括支援センターに相談してみてください。

4.『本は情報の宝箱

 ネットでアルツハイマー型認知症について検索すれば様々な情報を手に入れることができますが、それと共に本から学ぶべきこともたくさんあります。認知症について書かれた書籍の中で、今回は私が特にお勧めする書籍を2冊ご紹介させていただきます。

認知症」おすすめ書籍

1冊目は文響社の「認知症の介護と手続き」です。


こちらの本の特徴は1冊の中に認知症の介護に関連する必要な情報がほぼ全て詰まっていることです。本の構成はQ&A形式が主になっており、認知症の事を初めて知る方にも非常に理解しやすく、とても丁寧に書かれています。私もこの本を愛読しており、仕事でもブログを書くにあたっても参考にさせていただいています。この1冊が手元にあれば認知症の理解、予防、受診、介護(保険・サービス)、介護のお金の問題まであらゆる悩みを解決する手助けになると思います。

2冊目は文響社の「マンガでわかる!認知症の人が見ている世界」です。


 こちらの本を私がお勧めする理由は「とにかくわかりやすい!」という事です。マンガ形式で読みやすく、親しみやすいという事がこの本の特徴の一つですが、私が気に入っているのは本の構成が素晴らしいことです。

本の前半部分は認知症の症状ごとに見開き1ページの右側を「家族やケアする人が見ている世界」、左側を「認知症の人が見ている世界」に分けて書かれており、誰が読んでも認知症の人の想いと症状を理解できる内容になっています。とにかく優しさが詰まった素敵な1冊です。

5.『地域の資源を活用する』

 3.「医療・介護サービスの利用」において、介護サービスを利用し介護の負担を減らすというお話をしましたが、他にも各市区町村で認知症のケアを目的とした取り組みがされています。その地域資源を活用するという方法も有効です。

 お住まいの地域によって取り組みは異なりますが、認知症についての相談、体操教室、物忘れ予防カフェ、認知症の本人と家族の会、等の取り組みがなされています。ぜひ地域資源を有効に活用しあなたの介護に役立ててください。

あとがき

 私がアルツハイマー型認知症について知ることになったきっかけは、介護施設で働くことになったことです。 それ以前の私のアルツハイマー型認知症への知識といえば、世間一般的に知られているような「物忘れ」「徘徊」等の症状があるという程度でした。

 しかし私は介護士になったことで、「認知症」について学ぶ機会に恵まれました。そして経験を重ねていくに従い次第に認知症への知識を身につけていくことができました。しかし認知症について人にアドバイスや説明をするとなると、なかなか難しいものでうまく伝えることが出来ないことが度々あり、そのような経験から私の認知症へ理解が不十分であることに気づきました。

 今回、私が「アルツハイマー型認知症」について学んできたことを整理しブログにしました。出来るだけ読者の方に解りやすく解説するように心がけましたが、至らぬ点もあるかとは思います。

それでも私のブログが皆様のアルツハイマー型認知症の理解の手助けになれば幸いです。これからもよろしくお願いいたします。

  1. パーソン・センタード・ケア
    1980年代イギリスのブラットフォード大学の心理学者トム・キットウッド博士により提唱された認知症ケアの理念。キットウッドは「人」の側面に注目し、100人が100通りの人生を持つように、かかわり方によって認知症の症状は変化するするため、不治の病と諦めるのではなく、認知症の人に前向きにかかわることでケアの可能性が広がると主張した。
    〜介護福祉士実務者研修テキスト第4巻より〜

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